第4回裏紅布袋しめじ(うらべにほていしめじ)


ウラベニホテイシメジは姿のりっぱなキノコである。小型菌が株立ちで生えることもあり、初心者ならずともホンシメジとまちがえることがある。惜しいことに少々粉くさいので、すぐに見分けがついてしまう。それで味のほうはどうかというと、いかなる菌書をひもといても「うまい」というランク付けは見当たらない。しかし、わたしはこのキノコが好きだ。なぜかというと、歯切れ、歯ごたえがよく、味付けしだいで酒の肴ともなれば、ごはんのおかずにもなる自在さが備わっているからである。この点で、ウラベニホテイシメジを季節の友として濃密に利用する伝統をもつ群馬県の山間地のひとたちを、わたしは尊敬しないではいられない。詳しいその利用の仕方を知る機会はないが、さぞ工夫をこらしたものであろう、と思う。
よく洗って、おおまかに切ってからたっぷりの湯でゆでる。見るまに身が縮んでいく。この繊維のしまりかげんで独特の歯ざわり、歯ごたえが生じる。ひとによっては、柔らかいものすなわち旨いもの、という固定概念にとらわれ、食物の適度な「かたさ」をも嫌う向きがあるようだ。もちろん口内や歯の病気だったり、年齢的に歯の弱ったひとには当てはまらないのは当然のこととして、わたしは食物のもつ歯切れや歯ざわりに味のポイントをもっと置いていいと思うものである。同じ意味でいうと、わたしは柔らかいキクラゲよりも、こりこりしたアラゲキクラゲのほうがずっと好きなのだ。

▲ゆでこぼしたものを一口大に切って、いためる。  
6〜7分もゆでたらザルにあけて湯を切る。このゆでこぼし処理によって菌体のもつ苦味とアクを除くことができる。さらに水にさらせばなお残留する苦味も薄められるだろう。ここいらへんは経験でやっていくしかないがまず言えることは、苦味はある程度残しておいたほうが天然キノコらしい風味が味わえるということである。あまり骨抜きにしたのでは、なにを食べているのか判らなくなる。
 今回は油いためでいこう。ニンニクとショウガを細かく切って炒めてからキノコをいれる。強火でがんがんやっていく。出し汁と醤油を加え、三温糖をふる。子どもも食べられるように辛いものはいれない。最後にみりんか酒をふってテリをだせばできあがり。

「ウラベニホテイシメジの油いため」ができた。なにかいい料理名を考えてやりたいが、もっかそんな暇もなく、ただ喰うだけである。それもあんまりな話で、来年の秋くらいまでにはカッコいい料理名を与えてやりたいといちおう考えている。なにしろこんなにうまいのだから。我が家ではちいさな子どもたちにも好評である。鋭い舌と鼻を持つ次女も抵抗なく、むしろお代わりをしていた。
 ところで、いちばん上の写真の量が、料理することによって右の写真にある中形の鉢すりきりいっぱいくらいになったのである。この歩留まりのわるさはいかんともしがたい。今年は発生量が少なかったが、例年採集しきれないほど山いちめんに生える。それで籠にしこたま採ってきても喰うとなるとあっというまに終わるのだ。しかし、キノコは季節のもの、むしろそれでいいのだろう。
               (2001・11・21)

※ウラベニホテイシメジは個体によって有毒のクサウラベニタケに似ていることがあります。同定は慎重に。

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