第2回ムーチー(鬼餅)



 ▲よく繁ったサンニン。1月2日撮影。
ムーチーというのは、沖縄で旧暦12月8日(本年1月2日)の行事に従って作られる植物の葉で包んだおもちのことである。もち粉を使って蒸すのだからさほど難しい料理というわけではない。ただ、包む植物の葉は沖縄ならではのものを使い、またこれでなくてはムーチーにはならない。その葉はサンニンという方言名の月桃(げっとう)の葉である。ゲットウはショウガ科アルビニア属で、台湾、中国、インド、マレーシアなどに分布。北限は鹿児島県の佐多岬である。
「沖縄大百科事典」沖縄タイムス社刊所載の記事(澤砥安喜氏による)をみると、「根茎は健胃整腸消化不良などの薬用として、種子は仁丹の主原料となる」とあり、ほとんど虫がつかず、草ぜんたいに芳香があることから生体を活性化させるなんらかの成分を含むものと思われる。じっさいこの葉で包んだもちを食べると、気分が落ち着いて次の仕事にスムーズにかかれるような気がする。ところが最近は沖縄でも家庭で作るところはだんだん減ってきているらしい。香りを敬遠する向きもあると聞く。肉やチーズなどの洋風の食文化もそうとうに臭いものであるが、現代の人間はそれに慣れてしまった。そしていま足下の食文化を捨て去りつつあるのだろう。


▲刈り取ってきた葉はていねいに洗う。


 
▲手でしっかりと混ぜていく。
この正月、88歳のおばあがムーチーを作るというので、家族そろって作業に参加させてもらった。わたしは義父とともにサンニンの葉を採ってくる。義父が鎌をふるうたびにあたりに芳香が漂い、南の植物の力を感じたものである。
 さて、葉で包むもちだが、もち粉と三温糖を水でねっていく。左の写真の量でおおよそ80個のムーチーができる。

 ▲張り切って手伝う子どもたち。

よく洗って乾かしたサンニンの葉の表面に食用油を薄く塗る。これをやらないともちが葉にくっついて取れなくなるからだ。そのあと、丸めたもちを葉の表面に細長く平らに伸ばして、葉を包み込む。上のような形に包んで、サンニンの茎を裂いて作った繊維でしばる。先の「沖縄大百科事典」によれば、サンニンの茎は結束用として古くから実用されていたという。たしかに丈夫であり、蒸すと粘りがでてきて、なおさらよい。

蒸し器に並べる。湯気が立ってからだいたい20分くらい蒸す。この段階で芳香が一気に強くなる。家ぜんたいがサンニンの香気にくるまれたようになって、いやでも南国の正月の気分がたかまる。ところで市販のムーチーには黒糖入りなんてのもあるらしい。
 
▲蒸しあがったところ。

 
▲葉をひらくと、このようにできあがっている。
   このまま熱いうちに食べてもいいが、冷めて
   からの方が味が生きてくる。
沖縄でも市街地の住人はムーチーを自作するにあたってはサンニンの葉を買わなければならない。だから、それなりに面倒だということは判る。まして個数をかせぐには手もいる。それにしても受け継がれるべき文化が業者まかせになっていいわけはない。
 今回、かみさんの故郷沖縄での正月となったが、はからずもムーチー作りを体験させてもらって、ずいぶん楽しんだ。子どもたちも大喜びだった。80個作ったうちの大半を我が家の子どもたちがあらかた食い尽くした。どうやらこの家ではムーチー作りにおいて後継者にはことかかないようである。
             (2001.1.19)

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