第10回「天然きのこを料理する」


左上からマスタケ、ウスヒラタケ、カバイロツルタケ、ウラベニイロガワリ、右下がクリフウセンタケ。
9月22日土曜日、少林寺拳法の練習にいく娘を大月市まで車で送ってから家に戻ると、たくさんの天然キノコがわたしを待っていた。留守番のかみさんがいうには、シゲちゃん一家が今日、キノコ狩りにいってきたとかで、そのお裾分け、だと。
広げた新聞紙に5種類の天然キノコが並ぶ。これだけの天然キノコを採集するのは簡単ではない。かなりの努力がいる。運にも恵まれなければならない。特にクリフウセンタケは場所によっては高値で取り引きされているので、これだけのお裾分けは相当に貴重だといえる。マスタケもうまく坪に当たるとリュックいっぱいぐらい採れるけれど、ふだんはそうそううまく採集できるものではない。この日の収穫もこれだけだったらしいのだが、わたしたち家族のために置いていってくれたのだ。
さて、足の早い天然キノコのことである。手早く下ごしらえしなければならない。ひとつひとつ手に取って観察してみる。どれも発生したてで、新鮮なことこのうえない。こういうキノコは虫が少なく、神経質に虫出しする必要がないものである。塩水に浸すと、たしかに細かい虫は追い出せるが、キノコの持ち味である香りが飛んでしまう。
これはわたしのやり方だが、先細の小振りな洋包丁を使ってゴミをたんねんに、かつスピーディに取り除いていく。ほとんど水は使わない。このやり方は天然キノコの下ごしらえとしては、じつはいちばん早いのではないかと思う。細かい虫なんかは料理の過程で味に紛れるものであるし、それ自身なにがしかの蛋白質でもあるわけで、ひとの身体にわるかろうはずがない。…気にしない、気にしない。

(1)ウスヒラタケのタマネギ、ベ−コン炒め。
ウスヒラタケは栽培品もあるがもちろん天然ものの味は抜群。かきたまごは別に作っておいて後で混ぜ込む。塩とコショーだけのシンプルな味つけ。
(2)クリフウセンタケの傘の銀あんかけ。
このキノコのおいしさ、万能の応用範囲を知れば、どんなひとでも天然キノコに対する偏見が吹っ飛ぶと思う。傘だけを茹でて、塩で薄く味をつけ、片栗粉を融けばよい。この味の上品さよ!
(3)カバイロツルタケのゴマ味噌がらめ。
カバイロツルタケはだしのでるキノコで、吸い物によいが、今回は変化球である。少し甘めの味噌と酢を使う。茹で汁と混ぜればおつな一品となる。
(4)マスタケのフライ。(5)クリフウセンタケの柄の天ぷら。
マスタケの肉は本物の鱒にそっくり。食感も姿も似ている。味は濃いので知らないひとは魚肉といわれても疑わないだろう。クリフウセンタケの柄は、繊維の歯切れのよさと味のよさが相乗効果を生む。油に合い、ビールにはよい友となる。
(6)ウラベニイロガワリのトマト煮。
おおきく切って煮込む。濃厚な味だが食感は単調。そこで先に採集して冷凍保存していたイロガワリも入れる。イロガワリの傘はぬめりがあり、味に変化がでる。
できあがり。料理としては6種類になりました。それと、使っている器のうち右下以外の4つが友人の大野史郎・作のものです。

だいたい1時間くらいで料理は完成。5人家族の我が家だが、それぞれにごはんをおかわりしつつ、みんなきれいに食べてしまう。3姉妹のうち、上ふたりが中学生、下のはまだ小学校4年生だが、よく食べる、食べる。この夜はスープなしで、子どもたちは「さんぴん茶(ジャスミンティー)」を、大人は久々にビールだった。栄養学的なことはさっぱり判らないけれど、自然のまっただ中の味がここにはある。現在のわたしにとって、それは真の意味のぜいたくであり、薬膳思想の実践そのものなのだが、効果のほどよりはただ、おいしさ、という1点に於いてよろこばしく、かつ、安心できるのだ。これ以上の食卓があるだろうか。シゲちゃんたちには感謝である。(2007.9.25)


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