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フィールドノートD
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 2001.11.21

 ■妖精は地に踊る■
 9月某日、沢井のトンネルを越えてすぐの消防小屋あたり。午前8時半ころだったか、じつはここにシーゲル堂への案内看板が立てられたというので、写真を撮りにきた。看板は吉野在の西村繁男さんが絵を描き、森哲弥さんはじめいろんな在のアーティストたちが協力して立てたものだった。わたしは初めてのデパート出店などの事情があって、横山薬品改造計画にはほとんどタッチできず、せめてHPを創るくらいは力を尽くしたかったので、基礎になるデータを集めていたのである。トンネルを出てすぐのところにある空
き地に車を停めて、デジカメをつかんで、坂を下っていくと目についたものがある。林のへりからカミエビが実を長くさげているのである。生け花の素材に使うひとがいるほどで、たしかに美しい実だ。
 九州にいたころはほとんど目にしなかった植物で、こちらへきて何度か目にし、ためしに口に入れたことがあったが、変な味だったことを覚えている。子どものころは秋の深まりとともにエビヅルの実が楽しみだった。その記憶があるのでカミエビもつい口にいれてしまったのである。なにごとも体験だ。以後、この実をみても食欲に結びつくことはないし、子供たちにも自信をもって「まずいぞ」と教えられる。
 あまり離れていないところに
ガマズミの赤い実もみつけた。これはホワイトリカーに漬けるとすばらしい酒になる。ルビー色になって味もよい薬酒といえば春のナワシロイチゴと双璧をなす。問題はどちらも量を集めるのがたいへんで、枝から実をしごき落としたり、けっこう手間がかかる。そういうわけで、仕事に追われると簡単には取りかかれない部類の、アウトドアでの楽しみということになる。だから最近はもっぱら眺めているか、写真に撮るかというぐあいだ。

 10月も下旬になって、やっと時間がとれ、山にはいることができた。すると地上はまさに晩秋の色で、はやくもムラサキシメジがあちらこちらにフェァリィ・リングを描いていた。以前にも書いたけれど、ここらあたりのムラサキシメジはあらゆる図鑑のものにくらべてずっと青みが濃い。カラーチャートをお持ちの方は比べてみてほしいが、通常の図鑑ではシアン10%、マゼンタ30%程度に表現されている。ところがこのへんのものはシアン50%くらいまでいくだろう。印刷物はマゼン

タが上がりやすいことを差し引いても、これは地域の特殊性をあらわすものではないだろうか。身びいきそのままに言わせていただくと、わたしは藤野のムラサキシメジぐらい美しいキノコはめったにないと思っている。
 たくさん採れたのでゆでて冷凍保存した。写真家の三宅岳さんは、さっとゆでておろしあえというのが定番だという。わたしは吸い物かシチューなどの煮込み料理に使うことが多い。どのガイドブックをみても落ち葉臭さが嫌われて味番付は低いが、そんなものくふうしだいだ。これほどのキノコ、うまく料理できなくてどうする、と思う。
※シアン(青)、マゼンタ(赤)共に印刷インク。


▲オケラ。これが咲くと山にキノコがでる。
 春は山菜として利用できる。
 山道にはオケラの花が咲いている。「山でうまいはオケラにトトキ、嫁にやるのも惜しゅござる」と唄われたもの。途中かれんなリンドウの花をみつけてしばしなごんだ。高原のリンドウとは姿がずいぶんちがう。つつましやかで里の娘という感じ。盗掘されなければいいがと思った。
▲リンドウ。花色の薄い里山のものである。
▲コカブイヌシメジと思われるキノコの群生。
▲コレラタケそっくり。柄は中空だし。くわばらくわばら…

 今年は全般に食用できるキノコは出なかった年だったと思う。よくある話で、発生には周期があるのだ。そのかわりといってはなんだが、毒キノコはけっこう目についた。コカブイヌシメジもコレラタケも地味で怖いイメージはない。しかし、用心しないと危ない。
▲アカモミタケのたきこみごはんは、わたしの大好きなキノコ料理である。  キノコと塩だけを加える。ほのかな夕焼けいろに染まったごはんから
  たちのぼる香り。味のよさ。おもわずどんぶりめしだ。
 不作とはいっても大自然のことなので文句はいえないし、むしろ限りある収穫物に感謝すべきだろう。アカモミタケはこれまでどんな年でも安定した発生をみせていたが、今年はずいぶん発生量が少なかった。それでもぼちぼちと冷たい地上に羽根を広げるような妖精たちの踊りをみつけると、こころが波立つ。ああ、またあえたね、と声をかけている。さわやかな香りと上品な出し汁がすばらしいキノコである。
 この季節、プロのシメジ採りと顔をあわせることが多いが、相変わらずマナーがわるい。プロが山を守らなくてどうするんだと思う。ゴミの増えていく山をみるのはさびしい。  (2001.11.21)
               

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