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フィールドノート(29)
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 2010.7.29
  

 ■炎暑の山に■
近来にない暑さの夏がやってきた。うらめしいほどよく降る梅雨が明けたと思ったら、うかうか日盛りなど歩きまわれないほどの炎熱である。といっても、ここは沖縄や九州ではないし、東京の真ん中ってわけでもない。せいぜい温度計は36度を射すのがいっぱいってところだ。湖のそばで、夜は涼しくなるし、寝苦しいわけではないからクーラーも要らない。そんな環境で暑いを連発するのはぜいたくというものだろう。
とはいえ、そんな高気温のなかで、土地のキノコたちは元気に顔をだしている。7月にはいって2週目ころから山全体に夏キノコが大量発生した。上は食用になるものを選んだもの。左図に名称を示した。
右上のラップのそばのビニール袋に入っているのはアンズタケ。というわけで全部で10種類の食用菌が採集できたということになる。ところが、やれうれしやと手放しで喜べないのが最近のキノコ事情。この10種類のなかで、じつは2種のキノコが菌学の最先端で食用不適の方向に認識が改められてきている。ひとつはヤマイグチであり、もうひとつがこともあろうにアンズタケである。ヤマイグチはまあしょうがない、と思えるけれど、なんでアンズタケが、とキノコファンなら誰しも思うことだろう。最新のキノコ図鑑によると食用不適とされるキノコはますます増えている。アンズタケは言うに及ばず、コウタケ、マスタケ、カノシタなど、これまで美味菌として賞賛されていた種類もまた槍玉にあがっているのである。

タマゴタケを狙う写真家・三宅 岳氏。某日氏と同行して近所の山を巡った。氏の撮影対象との向きあい方は、さすがにフィールドで鍛えたプロらしく慎重、かつ対象に向けるこまやかな愛情のこもったものである。慈しむようにレンズを向ける。であればこそ対象が叙情的に輝きだす氏独自の表現になるのだろう。
左下は
キカラハツタケ。有毒。たくさん出た。
柄の編目模様のくっきりとしたヤマドリタケモドキ。最高の食菌。



優美な姿をした不明菌。試しにかじってみると最初に甘さがきて、直後に苦さが襲ってきた。
コゲイロハツだと思われるキノコの群生。やや臭う。
かじると変な味がする。姿は立派なのだが…惜しい…って。

クリイロイグチ。食用菌です。今回は小型だったので写真を撮るだけにしました。いつまでも菌床が存在し続けてくれることを願います。この山にこの先ずっと生えてくれよ。
アンズタケ。ヨーロッパではハイクラスの食用菌なのだが、これが食用不適とは。ちなみに、我が家では炊き込みご飯にした。おいしい! 

左上はニセクロハツ。猛毒菌である。さりげなく山道のそばに生えていた。割って肉の色の変化をたしかめる。うっすらと赤くなるが、そこで変化はストップ。まちがいなくニセクロハツ。行列になっているものを残らず斜面の下に落っことした。
右上と左下は
ウラベニイロガワリ。これは安全な食菌で、食感は単調なれど味が濃く、煮汁が特にうまくなる。だいたいシチューやカレーに入れることが多いが、もう少し料理方法を考える余地がありそう。粉を付けてソテーするってのはどうか?
カントウカンアオイの葉にとまるヒグラシ。

ムラサキヤマドリタケと後ろはオニイグチモドキ
この夏の収穫でもっともおおきかったのがムラサキヤマドリタケの幼菌である。持ったときの感触がずしっとしていて、傘裏が真っ白で新鮮このうえない。これをどう料理するか考えたが、いつも世話になっている我孫子に住む弟夫婦に送ることに決めた。それで手早く洗浄し、保冷剤を詰めて梱包し、ク−ル宅急便で送ったが、果たしてずいぶん喜んでもらえた。思うに、こんな収穫はよっぽどの偶然がないと恵まれないものである。それにもまして、この夏のキノコ発生は例年をよほど上回るという事実があるのだろう。付け加えるが、オニイグチモドキは食べられる。うまい、とはいえないが。(2010.7.29)

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