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フィールドノート(23)
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 2007.9.16

 ■彼岸花立てば■

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イロガワリ。奥牧野の道志川沿いの山で収穫したもの。9月8日(土)。
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菌体はしっかりしている。傷つけるとすばやく青く変る。加熱すれば青色は消える。
8月の猛暑のあと、9月にはいり関東地方を直撃する颱風があって、それまでからからに乾いていた山にざんぶりと雨がもたらされた。毎年恒例の地元アーティストたちのお祭り、ART収穫祭に向けて会場準備に参加していたとき、雨を吸った木立のなかにおおきなキノコがたくさん顔をだしているのをみつけた。それがイグチ科のイロガワリだった。この一帯は毎年のように発生するらしく、昨年もみた記憶があった。イロガワリは煮ると傘にぬめりがでて、舌触りがよく、おいしいキノコである。ただ、青変性があるので、気味悪がられ一般的にはなじみがないだろう。キノコ愛好者のなかにも、お腹がゆるくなったというひとがいる。あまり食べ過ぎない方がいいのかもしれない。
彼岸花。9月15日撮影。家の前に毎年でるもの。
アオツヅラフジ。これから実がうつくしくなる。
彼岸花が立ちはじめた。秋の訪れである。まだ残暑はきびしいものの、確実に季節は移っていく。いよいよキノコの時季にはいっていくのだ。わくわくしてくる。昨夕、シゲちゃんのとこから、我が家の家族へ電話で夕食のお誘いがあった。なんでも山梨県側でキノコをたくさん採ってきたとかで、その料理が用意してあると。なんと生憎なことに子どもたちは少林寺拳法の練習で、かみさんは仕事。近々、キノコ狩りにいこう、と約束したが、まったく惜しいことだった。
コナラのどんぐり。颱風のあとの山道はどんぐりだらけ。
山道は青いどんぐりが敷き詰められたようにぎっしり落ちている。本格的な秋の前にこんなに落ちてしまっては、山の動物たちは困るのではないか。完熟していない実はまずいだろうし、いったん土に落ちれば雑菌や虫の餌食だ。
ニラの花も咲いている。わたしはこの花が好きだ。少年時代を思い出させてくれるからである。昭和30年代前半はわたしのなかでこのニラの花のように白く星のように秘めやかに輝いている。

折れた幹。尾根にあるナラの木。
相模湖の北と南にある標高が400mクラスの里山を歩いたが、颱風の爪痕は意外に深く、道は倒木であちこちふさがれ、樹齢4〜50年とおぼしいミズナラなどもおおきく損傷していた。このぶんだと標高の高いところはもっとひどいはずだ。
砂礫岩。相模湖の南側は山塊が砂礫岩でできている。おそらく地質的にはあたらしいものだろう。
アケビ。早々と山道に落ちている。口のあいたものはアリがいただく。
▲ガマズミ。これから熟す。今年は薬酒をこさえようかな。
モミの実。熟すと濃いむらさき色になる。この青い実でもかじったあとがあった。
モミの木の実はリスの好物だ。秋も深まった山道を歩くと、盛んにかじっているかわいい姿をみかける。でも、こう青いうちに落ちてしまってはどうだろうか。
朴の木の実。ずっしりとしておおきい。
以前、写真家の岳ちゃんが「花炭」と称してこの朴の木の実を姿形のままに炭化させていたことがあった。たしか茶筒のようなものを利用して炭焼したのではなかったか。いい出来上がりで、造形的にもおもしろいものだった。

マタタビ。写真中央から上に虫えい(ゴール、虫こぶ)がある。薬効高い生薬となる。

千葉の我孫子に住む弟夫妻がマタタビを手に入れたがっていた。我が家の周辺には珍しくもないものなので、そのうち送ってあげよう、とこちらは気楽に思っている。よく事情が判らず、しばらく手をつけなかったのだが、最近、かれらのHPの掲示板を読んでいたら15年付き合った愛猫の死が伝えられていた。ああ、そうだったのか、といまさら得心がいく。じつは家のすぐ近くに生えているので、いつでも採集できるから、と楽に構えていたわけだった。もっとはやく採集して送ってやっていたら、といまさら後悔した。
遅ればせながら、マタタビやら夏枯草の花穂(茶とする)やらをまとめて宅急便で送る。愛猫を失った弟夫妻の落胆に少しでも力になれば、と思った。
マタタビは虫えいを薬酒にすると成人病の予防や治療にふしぎなほどの力を発揮する。なぜこう断定的にいえるかというと、わたし自身がこれで救われたからだ。具体的には、ずっと前立腺肥大ぎみでオシッコの切れが悪かったのが、マタタビ酒で劇的に改善したのである。この体験は鮮烈だった。目立たない薮のなかに息づく自然の力をあらためて思い知らされたものだった。

きょう昼に、「マタタビが届いた」と弟から電話があった。猫のことを訊ねると「もう市販の粉末マタタビも飲めないくらい衰弱していた」という。それなら…とわたしは気が楽になったけれど、一抹のさびしさは残った。

オトコヨウゾメ?。似た種類の赤い実がたくさんある。同定はむずかしい。
小鳥の好みそうな赤い実が山のあちこちに目立つようになってきた。ドクウツギやヒョウタンボクなどの猛毒の種類はすでに実の季節を終えている。しかし、油断はならないだろう。先駆者たちの経験上にあがったものだけを口にすること、薬酒に利用すること、は自然界の掟のようなものだ。日本は出版文化が盛んなので先駆者たちの経験値が本のかたちで万人に共有できる。毎度この季節になると、今年こそはあたらしい図鑑が欲しいな、と思う。キノコも植物関係も。

ウスヒラタケ。山桜の落枝に生えていた。傘径3センチほどのちいさなもの。
最後にキノコにご登場願おう。ぱっとみたときは多孔菌かなと思った。よくみると質が薄く、ひだがある。やさしく、快適な菌臭があった。ウスヒラタケだった。ちいさいのでそのままにして写真だけ撮って帰る。来週になれば、ウスムラサキホウキタケやバカマツタケが顔をだす。いまからたのしみだ。

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