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フィールドノート21
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 2007.5.11

 ■野の花をたずねて■

イカリソウ。藤野某所に自生する個体。
キクザキイチゲ。関東では消えつつあるという。

左はヒトリシズカ。雅味があり、春の野を静かに彩る。上のイカリソウと同じフィールドに自生するものである。こういった植物が特定の目的を持った業者や、こころないハイカーの目を逃れて、か細い生を保っていることに現代の自然環境の容易ならなさ、を感じてしまう。
おとなりは春の野にたくさんみることのできるタチツボスミレ。スミレのなかではもっともありふれたものだが、元気のいい女子高生みたいで、重なりあって咲くところなどなんとなくチアガールを想像してしまう。
右の写真のスミレは、ナガバノスミレサイシンではないかと思う。わたしの手持ちの図鑑類でははっきり同定できない。花はおおきく、優雅で縦に長い。色は薄いけれども、そのぶんはかなげで野の花らしい。
日本産スミレは200種あるらしいから気長に文献を漁ってみようと思う。
ここにある写真のなかでもイカリソウは湖をはさんで陣馬山側の盗掘がひどい。10年以上前から観察しているが、わたしの知っている自生地はことごとく掘り去られて、いまやみるかげもない。それはリンドウもそうだし、センブリも昨年とうとうなくなってしまった。野の花を愛でるものとしては、がつんとこたえている。

花色の濃い、大型のスミレ。名前は不明。
ユリワサビの花。清楚でさりげない。
スミレ。たぶん代表種だと思われる。意外に少ないもの。
ウバユリの新芽。堀りとって山菜として利用できる。
イチリンソウ。アネモネの仲間だという。
ニリンソウ。春告げの花。
シュンラン。撮影の難しい被写体。
アマナ。日本産の原種チューリップ。
マルバスミレ。純白の花がひとしお美しく感じられる。

春の里山。青田から宝山へ至る尾根筋より篠原方面を望む。道志山塊から丹沢が見通せる。

チゴユリ。この季節の林床を埋める。かそけき風情ながら、よくみると味がある。
マルバアオダモ。独特のかたちの花で、モクセイ科だけに香りを期待するが、かすかに甘い感じで、香りはあまり強くない。
■右上のザルにはいっているのはクサギの新芽である。これを塩ひとつまみいれた湯に通し、天日でからからに干しあげたものが左の写真のもの。これを水で戻し、魚の煮付けなどの鍋の隅にいれて煮る。そうすると、あらふしぎ、ほろ苦い山のヒジキができあがるというわけ。とにかくクセになるうまさ。苦味指向のひとにはたまらない。右は食べごろ、採りごろの山ウド。遠来の客用にと採集を控えていたもの。
左は山ウドの収穫。つごうで客人の来宅が伸びたので自家用にと採集することに。しかし、3日ほど放っておいたらずいぶん成長していた。足元にアミガサタケとミツバがあったのでこれも収穫。みんな我が家の周囲にあったもの。
山ウドは捨てるところがない。皮は油味噌で炒めて酒のさかなに、葉は味噌汁にいれる。やや煮込めばアジタバに負けないくらいの風味だ。
アミガサタケと名のつくキノコは日本産が10種類くらいある。右のアミガサタケは高さが15センチくらいあって、柄が太いのでアシブトアミガサタケだと思われる。手で裂いて鍋にいれ少量の水で煮てスープをとった。味付けは塩だけ。結びミツバを浮かせて椀に張り、子供たちひとりひとりに味をみてもらったが、3人とも気に入ってくれた。キノコそのものもしこしこした歯触りで、噛みすすむとじんわり味がしみ出すようだから子供ながら「うまい」と感じるようだった。次の収穫があったらバターを使った洋風のスープにしてみようかと思う。
このキノコはグロテスクな外観で損をしている。右の写真は偶然に寄り添うように置いたものだが、これが人間にとって、自然からの贈り物としてうれしい存在であることを、その外観に関わらず、あらためて感じる。
5月の連休が終わって、最初の登校日だった。中1と小4の子が青田の出入り口でキクラゲをみつけた。グラウンド側の立ち木が枝枯れして、土手から落下していたのである。基物はエノキらしい。このところの雨で水分は足りている。

          
上の写真を解説すると、右側の木がたぶんエノキで、キクラゲが着生している。子供たちがみつけた。左は桑の木で、アラゲキクラゲが着生しているもの。これは家の周囲にあった。こうして並べて比べてみると両者のちがいがよく判る。なお、キクラゲは基物のちがいで色が変化することが多い。
上段がキクラゲ。ぷよぷよしている。料理すると、上品な味がでるし、なめらかで舌触りがよい。下段はアラゲキクラゲ。裏面に毛が生えている。こりこりした歯触りでおなじみ。甲乙つけがたい持ち味である。
以前にこのフィールドノートで書いたことだが、わたしは都心の神宮外苑でキクラゲをスーパーの袋に2杯採集したことがある。このときキクラゲは透んだ飴色をしていた。たぶん高地で伐採された木が集積されていて、事情があって利用されず放置されていたのだろう。
キクラゲとアラゲキクラゲは垂直的に棲み分けるとされているけれど、そういう例外もあり、かつまた藤野のような土地では両者は共存しているというわけである。
左はアラゲキクラゲの着いていた桑の木におなじように着生していたスエヒロタケ。材の白色腐れを起こす。これが着いたらこの木はついに自然に還るというわけである。
ところで、スエヒロタケの菌は人間の身体に害を及ぼすことがあるらしい。原因不明の体調不良を探っていったらスエヒロタケにいきついたという実際の例がある。わたしはキノコはなんでも噛んでみるくせがあるので、おそらくさまざまな菌が体内を泳いでいるにちがいない。そこでうまいぐあいに癌細胞でもとっちめてくれたら、と虫のいいことを考えたりしている。

カキドオシ。群れて咲く。
キランソウ。漢方薬になる。
マルバスミレ。気品がある。
途中キノコに寄り道しながら、春の野の花をたずねてきた。もちろんフィールドにはもっとずっとたくさんの顕花植物があり、それぞれにたくましくも美しい花を付けている。栽培植物とはちがって、野の花は日本の風土にあった生命力を豊かに備えており、それが一見地味ながら奥行きの深さを感じさせる美につながっていると思う。いつまでもこれらの花が咲き続けてくれることを願ってやまない。
フデリンドウ。標準種より紫が濃い。
梅とユズ。ふしぎなとりあわせ。

ハルリンドウ。実物は写真よりずっと青い。まるで宝石のような美しさ。

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