■オオイチョウタケも、先日採集したバカマツタケに劣らない第1級の食菌である。特に柄を貝柱に見立てた料理にすると、これがちょっと区別できないくらい貝柱そのものの味、食感を示すので驚く。旨味成分は上品で、傘のスープは単体でも充分なコクをあらわす。まさにいうことなし、の食菌である。ただ、今回は傘径が10cmに満たないものばかりで、オオイチョウタケの名前にふさわしい巨大さはなかった。
それでも、なかなか見つからないキノコであり、おいしさとはまた別に絹状の光沢のあるふくよかな柄や、なめらかなカーブを描く傘の表面の微細な輝きは、自然からの季節の送りものらしい美しさをたっぷりと備えていて、見ているだけでたのしかった。
後日談である。
オオイチョウタケを分けて食べてもらったのは、このコーナーでもおなじみのおふたり。ひとりは三宅岳氏。その岳ちゃんからは秋田の塩魚汁(しょっつる)をお礼にもらった。炒めものに、ドレッシングの隠し味に大活躍だ。そういえば、ご両親の三宅修さん、節子さんのところにも料理はいきわたったものらしい。
さて、もうひとりはシゲちゃんだ。そのシゲちゃんとは翌日、そぼ降る雨のなか道志の雄峰へキノコ狩りにでかけたのであるが、800メートルも頑張って上がったのに、成果はさっぱりだった。どうせ都留まできたのなら、というので、帰りにかれがめっぽう詳しい都留うどんのうまい店に連れていってもらう。そこで大盛りの肉つけうどんをおごってもらった。そのうどんのごりごりと固くて、にきにきとうまかったこと。さっぱりとしてイリコだしの効いた付けつゆも忘れられない味になった。それにしても冷たい秋の雨のなか、よく歩いたものだった。
思えば絹の肌をもつキノコの魔力は、男たちの暮らしのなかに密やかに生き続け、どこか共犯意識にでも似たものをひりひりと互いの胸に育んでいたのかもしれない。
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