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フィールドノートK
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 2005.10.10

 ■絹肌の誘惑■
リングを描くオオイチョウタケ。こんな発生ははじめてみた。
10月4日、直径5メートルくらいのフェアリィリングを描いていたオオイチョウタケ。じつはこれが発生したのは自宅から目と鼻の先の薮のなかなのである。左の写真は、わたしが撮影のために周囲の丈の高い草を刈り払ったので全体が見渡せるようになっている。じっさいは笹や葛、イネ科の植物がおおいかぶさっていた。注意しないと見過ごしてしまっただろう。たまたま薮のなかに白い姿がちらっとみえていて、そこは先月に正体不明のキノコがたくさん生えた場所に近かった。そんなせいもあり、注意を傾けることができたのである。
おおきなザルにいっぱいの収穫。3家族分の夕食をゆうににぎわすことが可能だろう。キノコにくわしい知人ふたりに電話をし、分割してそれぞれに食べてもらうことにした。
まわりには杉木立。あまり日光のはいらない場所である。

こういうものはへたに他人には進呈できない。キノコの知識のあるなしに関わらず、ふつうのひとには怖がられるだけだからだ。その点、わたしが電話をしたのは極め付けのキノコ好きであり、自然に対する畏敬の念を持ち続けている剛毅な男たちだった。かれらによってオオイチョウタケはその本来的な特質、旨さ、歯切れのよさなどを充分に引き出された料理となされたようである。しかも、かれらはかれらで裾野を広げたかたちで味わったらしく、思いがけないひとから後日、礼をいわれたりした。それはまた、なんともうれしいことだった。
傘の表面はハタケシメジやウラベニホテイシメジを思わせる絹状の光沢が顕著である。

オオイチョウタケも、先日採集したバカマツタケに劣らない第1級の食菌である。特に柄を貝柱に見立てた料理にすると、これがちょっと区別できないくらい貝柱そのものの味、食感を示すので驚く。旨味成分は上品で、傘のスープは単体でも充分なコクをあらわす。まさにいうことなし、の食菌である。ただ、今回は傘径が10cmに満たないものばかりで、オオイチョウタケの名前にふさわしい巨大さはなかった。
それでも、なかなか見つからないキノコであり、おいしさとはまた別に絹状の光沢のあるふくよかな柄や、なめらかなカーブを描く傘の表面の微細な輝きは、自然からの季節の送りものらしい美しさをたっぷりと備えていて、見ているだけでたのしかった。

後日談である。
オオイチョウタケを分けて食べてもらったのは、このコーナーでもおなじみのおふたり。ひとりは三宅岳氏。その岳ちゃんからは秋田の塩魚汁(しょっつる)をお礼にもらった。炒めものに、ドレッシングの隠し味に大活躍だ。そういえば、ご両親の三宅修さん、節子さんのところにも料理はいきわたったものらしい。
さて、もうひとりはシゲちゃんだ。そのシゲちゃんとは翌日、そぼ降る雨のなか道志の雄峰へキノコ狩りにでかけたのであるが、800メートルも頑張って上がったのに、成果はさっぱりだった。どうせ都留まできたのなら、というので、帰りにかれがめっぽう詳しい都留うどんのうまい店に連れていってもらう。そこで大盛りの肉つけうどんをおごってもらった。そのうどんのごりごりと固くて、にきにきとうまかったこと。さっぱりとしてイリコだしの効いた付けつゆも忘れられない味になった。それにしても冷たい秋の雨のなか、よく歩いたものだった。
思えば絹の肌をもつキノコの魔力は、男たちの暮らしのなかに密やかに生き続け、どこか共犯意識にでも似たものをひりひりと互いの胸に育んでいたのかもしれない。

               

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