FieldnoteのTOPにもどる

フィールドノートJ
TOPにもどる
 2005.10.4

 ■くさびら求道■
もう数日早かったら完璧な収穫となったはず。
毎度、秋になるとなぜか忙しくなるからふしぎだ。アート関係の行事が増えるからだろうけれど、これに早くから対処していない自分が第一にわるいのである。そんな忙しい仕事のあいまに、ふらりと出かけた里山で幻の珍菌に出会えた。これまたふしぎな縁だ。
バカマツタケは写真家の三宅岳氏が「第1級の食菌」と讃えるように、本物をしのぐ格を備える。
カワムラフウセンタケ成菌。ゆでこぼして酢の物にした。
格とは味もさることながら、その香りの強さに由来する。この刺激的な香りを評するのに何か適当な言葉がないか、と思っていたら、鼻効きの次女が「アカシアの蜂蜜のびんのふたを開けたときのにおい」といったので、おっ、なるほど、と感心した。ことほどさように、香りの強さはただごとならない。室内におけば部屋中が匂う。採集場所附近も強い香気が漂っていた。この季節にはプロ、アマ入り乱れて山を歩いているはずなのに取り残されていたのもふしぎである。なにしろ生えていた大半がばくされていたのだから。
ところで、この日採集した半分は日頃遊んでもらっているシゲちゃんに敬意をこめて進呈し、よろこんでもらった。

ウスムラサキホウキタケ。惜しいことに時期を過ぎている。
おおきなリングを描いていたウスムラサキホウキタケ。やや古くなっていた。適期に採れば豪華な山の幸。あきらめきれず、しばらくそばに立ち尽くした。
クヌギタケの仲間。きれいな桜いろだった。
歩程2時間ほど。収穫はこのほかにウラベニホテイシメジがあった。全体に季節が遅い感じがする。それと、植林された杉がだいぶ伸びてきて尾根にかぶさり日影をつくっているせいかケロウジが大発生していた。これではサクラシメジは出にくいだろう。
タマゴタケ。虫のついていない美しい個体。

10月にはいって裏山を散歩。玄関をでてから30分で山頂(374m)に着く。ここは傾斜がきついのでキノコを採集するには斜面を蟹歩きしなければならない。コナラに松が混じるという絶好のキノコ発生環境ながら足場がわるい。それでもうろうろしていたら持参のビニール袋にはキノコがいっぱいになった。これで所要時間は2時間程度である。

ウズハツ。傘の表面は写真図鑑などとちがって土に黒く汚れている。図鑑は撮影のためにゴミを取り除くから明るい色だが、それを知らなければ同定に迷うだろう。決め手はなんといってもこの紫色。
いちばん多かったのはウズハツ。傷付くと紫色に変る。乳液の量は、ほかのキノコを染めてしまうほど。
このキノコは愛好者のなかでは1割バッター的な扱いで、踏んづけないで除けて行け、ぐらいに考えられているようだ。ところが、魚のアラなどと生姜煮にするとなかなかうまい。もっとも、たくさん採ってきて鍋に放り込まないといけない。量をもってすれば名菌、珍菌におとらない味をかもしだす地味ながらあなどれないヤツなのだ。煮ると黒くなってしまうので見た目からは食欲につながりにくい点はたしかにある。食感もややぼそぼそしている。それでも、なんというか独自の味があることは認めてやっていいのではないでしょうか。
キノコ狩りの定番的な獲物がこれらのキノコだろう。小躍りするほどの味ではないものの、いかにもキノコらしいかたちや色が季節の雰囲気をよく伝えてくれる。
フウセンタケの仲間。カワムラフウセンタケが多い。
サクラシメジ。おだやかなワイン色。
ついに同定できなかったもの。香りがよく、食べられそうだと思ったが残念ながら捨てることにした。
採集してきながら図鑑と首っぴきの同定作業のなかで、ついに廃棄することになったキノコのことを思うと自分の勉強の足りなさをつくづく自覚する。自然に生えていたものに悪いことをした、という気がしてしばらくは落ちつかない。くさびら求道の道のりは永い。
オシロイシメジ。いわゆる粉臭がする。
ゆでこぼしてから酢を効かせた薄味のスープ状のタレをかける。山の土の味。
               

TOPにもどる

FieldnoteのTOPにもどる