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先生のおもいでの一冊(4) 奈良康子先生 |
「フレデリック」 レオ・レオニ 作 谷川俊太郎 訳 好学社、文春文庫ほか |
フレデリックは小さなねずみです。仲間のねずみが冬に備えてせっせと働いているのに、フレデリックはただ目をつむってじっとしているだけでした。いよいよ冬がやってきて外は白一色。ねずみたちも元気がなくなってきた頃、フレデリックは春の花の美しさや夏の若葉のみずみずしさ、秋の紅葉など仲間たちに話すのでした。フレデリックのおかげでみんな楽しい冬をすごすことができたというお話です。 この本を読むたびに、フレデリックのような子どもが自分の周りにたくさんいることに気がつきます。一見、意味のないような、無駄なように思えることが実は本当はとても大切でかけがいのないことであることをこの本はおしえてくれているように思います。そう考えると一人一人の子どもたちのの行動がとても興味深いものに見えてきて楽しいのです。(レオ・レオニの本は好きで、よく読みきかせをします。) |
おとなへのおすすめ本 | ||
「希望の国のエクソダス」 村上龍 作 文芸春秋社 |
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが希望だけがない。」 主人公の中学生の言葉です。それはそうだろうな、と思う。彼らの将来=大人たちが惹きつける魅力を放っていないのだから。それどころか、偉い政治家や警察が平気でうそをつくし、教師の破廉恥な犯罪の数々・・・・。彼はこうも言っています。「生きていくために必要なものが取りあえずすべて揃っていて、それで希望だけがないという国で、希望だけしかなかったころとほとんど変わらない教育を受けているという事実をどう考えればいいのだろうか・・・・。」 「エクソダス」とは、集団大移動といった意味ですが、本書では、八〇万人の中学生が学校を捨てました。そして彼らは、自分たちの持てる力(といっても、暴力ではなく、明晰で柔軟な頭脳)を駆使して、独自の世界を作っていきます。設定が二〇〇二年ということもあって、近未来小説ではあるけど妙に現実味があり、一瞬ノンフィクションと錯覚しそうになったりもしました。 なにしろ、冒頭に登場する日本の中学生は、日本を捨て、アフガニスタンからパキスタンにまたがって活動する部族の一員となり、戦士としてカラシニコフを肩にかけているのですから。 情報ネットワークや経済のことが相当詳しく描かれています。でもなにより中学生たちのせりふには、考えさせられるところが多いし、読ませます。 (納 尚子) |