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親と子でよむ
第2号

 先生のおもいでの一冊(2)小俣公司(教頭先生)
「人間の條件」五味川純平 作 文春文庫ほか
小学校1年生から高校2年生の時まで、読書らしい読書をしたことのない私でした。ところが、高校3年の夏休み前の時でした。大変な読書家で親友のA君から、「小俣お前、本の良さをしらないな、これ読んでみな。」と手渡されたのがこの『人間の條件』という、当時、映画化までされた全5冊の本でした。
読書家のA君の話題の豊富さ、知識の量に感心していた私は、心の中で難しい本で面倒な、と思いながら受け取りました。翌日、A君に「お前、目があかいぞ」と言われたことを、ついこの間のことのように鮮明に覚えています。内容が素晴らしかった、いや、A君に負けてなるか、という気持ちだったか、定かではありません。以後、いろいろなジャンルの本に手を出してみるようになりました。でも、最近はなかなか読めません。

おとなへのおすすめ本
「よその子」
トリイ・ヘイデン著
入江真佐子訳 
早川書房
この本との出会いは、私が子育ての上で子どもの心理についていろいろ考えている時でした。代表作「シ|ラという子」「タイガ|とよばれた子」で知っている方もおられると思います。
この「よその子」は、教育心理学者でありながら教員の資格をもち、小学校の補習教室を受け持っていた時の話です。トリイの補習教室に、あらゆるクラスからはみ出した4人の子どもが送られてきた。ノンフィクションであるが年代や名前は変えてあります。幼い頃の虐待のせいで脳に傷があり、字がまったく区別できない7歳の少女ロリ。父と兄を継母に射殺され、にくしみのとりことなり粗暴な10歳の少年トマソ。何を話しかけても反応しないか、おうむ返しにいうだけの自閉症の7歳の男の子ブ|。無知な行動がもとで妊娠してしまいカトリックの学校を追い出されてきたおとなしい12歳の少女クロ|ディア。「私たちみんな、ここではどうせよその子じゃない。なんでそんなに気にかけるの?」というクロ|ディアの言葉からこの題名はついている。苛酷な運命から彼らを救いだそうと全精力を傾けるトリイと、この4人の子供たちが互いの能力を引きだそうとまるで家族のように力を合わせていく。そんな子供たちとトリイの特別な絆が結ばれていく。読んでいくうちに4人の子供たちが、かわいくて、ついほほ笑んだり、涙してしまったり、くやしくてたまらなくなったりと、まるでその教室の中に自分がいるような気になっている。エピロ|グでは4人それぞれトリイの教室を巣立っていく。私の気持ちも風船がしぼんでいくような感じでだんだん淋しくなっていってしまうが、最後の最後に拍手をするというよりも、思わず読みながら右手をグ|にしてガッツポ|ズをとり、涙があふれました。トマソやったぁ!と胸がいっぱいになってしまった。また読み返して同じことをくり返す私なのでした。
                           (諸角通代)