■連載童話
おれたちの村 10回  蒲原ユミ子

8 意外なできごと (つづき)

「みなさん、先生の言うことを聞いてください。勝手なことをしたら、プールはおあずけですよ、危ないから」
 みんな、しゅんとなった。教頭先生は「その通り」という顔でうなずいた。
 その後は、桜田先生の指示通り水中じゃんけんやプールサイドに手をついてバタ足練習などがスムーズにできた。みんながじゅうぶん水なれしたころ、先生はみんなをいったんプールサイドに上げ、5分間休ませた。
 休憩時間が終わると、桜田先生はこんどはハンドマイクを使ってしゃべり始めた。
「次は、泳力チェックです。みなさんがどのくらい泳げるか、先生に見せてください。進めるところまででいいのですよ。プールの底に足がついたら、そこからプールサイドにあがってください」

 この方がずっとよく聞こえる。みん
なは教室にいるときのように先生の話に耳をかたむけた。桜田先生はみんなを

プールのたての方に連れていった。8コース25mである。先生はちょっと首をかしげてみんなに聞いた。
「8コースだけど、子どもだから女子と男子が分かれて10人ずつ泳ぎましょうか」
 みんなは「いいでーす」と言った。圭子が、
「男子は11にんです」
と言った。桜田先生はちょっと困ってみんなに聞いた。
「男子は11人で泳いでいいですか」
「はあい!」
「では、女子から泳いでもらいましょう。自分の得意な泳ぎでいいですよ」
 女子は「ええ?」と言いながらもうれしそうにプールに近づいた。
「飛びこみたい人は、飛びこんで

いいですよ」
と言って桜田先生はピーッと笛をふいた。
 キャアキャアとかん声をあげ、女子はドボンドボンとプールに入った。小さなミユキは横の低いプールサイドから入った。飛びこみをする女子はいなかった。10人の女の子たちは大騒ぎで泳ぎ出したが、ほとんどは5m前後。運動神経のいい圭子だって20mいかなかった。
 男の子の出番が来た。ほとんどの男子はまずドボンとプールに入った。飛びこみをするために上に残ったのは陽平と泉の2人だけ。
 笛の合図で、陽平は足からボッチャーンと元気よく飛びこんだ。ところが、泉は足で地をけりきれいな孤をえ

がいて、まっすぐ伸ばした手からとびこんだ。
 「わあっ!」
と、女の子の感動のため息。陽平は気にせず犬かきで泳ぎ出した。泉はクロールである。よく伸びた手が魚のひれのように水をかき、息つぎもきれい。
 泳ぎの得意な方の正夫とヒロキは20mほどでギブアップしたが、泉は25mでターンしており返してきた。プールの真ん中あたりで楽しく泳いでいた陽平に、むらむら競争心が湧いてきた。陽平は今までせいぜいプールの真ん中くらいまでしか泳いだことはないのだが、両手ではげしく水をかきだした。前方めざして。
 しかし、ようやっと25mにたどりついたところで力がつきた。陽平としては去年の倍の進歩だが、あまり満足感はなかった。泉が

50m泳いでプールサイドに上がっていたから。
 最後は、お楽しみの自由時間。桜田先生もプールに入ってきた。さっそく圭子たちが取りまき、先生におんぶする女の子もいる。先生は背中や肩に子どもをつかまらせたまま、笑いながらぐいぐい水をかいて進む。守やヒロキも先生におんぶした。陽平もおんぶしたかったのだが、なぜかできなかった。少しはなれたところで、いっしょうけんめいクロールの練習をした。泉のフォームを思い出しながら。
 自由時間も終わり全員プールから上がった。整理体操をし、女子からシャワーに向かった。教頭先生も帰っていった。 男子も女子の後に続いてシャワーに向かった。こんな時、陽平は帰るのも一番なのだが、きょうはちがった。クモを見つけたのだ。黄色と黒のしましま模様の足の長いヤツがフェンスにいたのでつかまえた。

 プールサイドに泉が
一人残って

足を洗っていた。陽平のクモが逃げ出し、すうっと糸を引いてプールの方へ飛んだ。
 キエ〜
 ひと声上げ、泉がプールに落ちた。そして、あんなにかっこうよく泳げた泉が水中でもがきあっぷあっぷしているではないか。
陽平はぽかんと見ていたが、冗談ではなさそうだとわかるやいなやプールに飛びこんだ。泉に手を差し出すと、泉はその手をつかみ、ようやくプールに足をつくことができた。それから、よろよろとプールから上がっ

ていった。さっきのクモもよろよろとプールサイドのへりにつかまった。陽平は弱ったクモをもうつかまえる気はしなかった。そして、泉がクモを見てびっくりしたのだとわかった。陽平の天敵、泉の意外な弱点を知っておかしくなった。けれど、クールで運動神経ばつ群の泉がよろよろと帰っていった姿はかわいそうでもあった。
(まあ、きょうのことはだまっててやるか)
 陽平の『武士の情け』である。 (つづく)